239.01
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【分野】磁気応用
【タイトル】ベクトルパルスマグネットを開発
物質の異方的磁気応答を可視化する新ツール
【出典】
・K. Noda, K. Seki, D.Bhoi, K. Matsubayashi, K. Akiba, A. Ikeda, “Vector pulse magnet”, Appl. Phys. Lett. 127, 122403 (2025) https://doi.org/10.1063/5.0284842
・https://www.jst.go.jp/pr/announce/20250924-2/index.html?form=MG0AV3
・https://www.uec.ac.jp/news/newsrelease/2025/20250924_7191.html
・https://www.iwate-u.ac.jp/cat-research/2025/09/006953.html
【概要】
電気通信大学大学院情報理工学研究科基盤理工学専攻の池田暁彦准教授らの研究グルー プは、物質の磁場応答を新しい視点から調べることができる「ベクトルパルスマグネット」 を発明し、その成果が 2025 年 9 月 23 日(日本時間)付でアメリカの学術誌「Applied Physics Letters」に掲載された。
【本文】
近年、トポロジカル物質や交代磁性体といった新しい概念が相次いで提案され、物質の磁性や電子状態を理解する上で「異方性(方向によって性質が異なること)」の研究が重要になっている。特に、磁性体に限らず非磁性体においても磁場に対する異方的な応答が注目されており、磁場の向きを自在に制御する必要性が高まっている。磁場を利用した研究では、磁場ベクトルの方向、物質の結晶方向、そして物質が示す応答の方向という三つのベクトルを同時に制御し観測する必要がある。こうした探索は非常に広大なパラメータ空間を持ち、網羅的な研究は困難であった。
従来は大型の超伝導マグネットを利用し、試料を回転させたりベクトルマグネットを用いたりする研究が行われていた。これらの方法は限定的なパラメータ空間を高精度に調べることに長けているものの、広いパラメータを網羅的に研究することは困難であった。そのため、現状では理論的に実験パラメータ空間を絞り込むことが重要な手段となっている。
池田准教授らの研究グループは、パルスマグネットを 2 台組み合わせ、互いに直交する磁場を同時に発生させることに成功した(図 1 左)。この装置を「ベクトルパルスマグネット」と呼ぶ。研究グループでは 2 つのパルス磁場のタイミングを精密に制御することを着想し、6 テスラの磁場を 1/1000 秒の間に 90 度回転させる、回転パルス磁場の発生に成功した(図 1 中央、右)。 この仕組みを活用することで、試料を回転させる作業を含めても、わずか 1 時間で物質の全立体角(4πステラジアン)に対する磁場応答データを取得することに成功した(図 2)。得られたデータを解析することで、物質が示す磁場応答の対称性を 3 次元的に「可視化」することができる。 実際に、グラファイトという 2 次元性を持つ物質に磁場をかけて電気抵抗の変化を測定したところ、電子状態の 3 次元空間に 2 次元的な性質を明瞭に可視化することに成功した(図 2)。ベクトルパルスマグネットを用いた観測手法は、従来に比べて高速かつ効率的に物質の対称性を探索できる新しい手法として大きな意義を持つ。
文責:大同特殊鋼 長瀬亮祐

図1 製作したベクトルパルスマグネット(左)
パルス電源からの電流(青い線)が流れるコイル(上下方向)とパルス電源2からの電流(赤い線)が流れるコイル(左右方向)とは直交しており、それぞれで発生する磁場も直交している。
回転磁場発生(中央)
磁場を高速回転させるイメージ図(右)
磁石を回すことで、N極とS極の間に発生する磁場の向きを回転させている。実際の装置ではU字永久磁石ではなく、パルス電磁石を使用。(ChatGPT-5を使用して作成したイメージ図で,実際の装置とは異なる。)
※電気通信大学ホームページより引用

図2 3次元可視化されたグラファイトの磁気抵抗に現れる2次元的磁場応答
※電気通信大学ホームページより加工して引用

